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2024.06.03.Mon
最新の長寿情報

2024年5月の最新新着情報  NMN機能性食品開発協会 橋本圭司

最新の長寿情報

5月では以下の最新情報をご紹介します。

①1型糖尿病を持つ女性の生殖結果に及ぼす影響と、不妊症を持つ女性の卵子の質と人工生殖技術(ART)の効率をNMNを用いて改善する戦略に関する研究が公開されました。

②特定の腫瘍抑制因子が臓器の線維化に与える影響を調査し、線維化の治療法としてNMNが有望である可能性が示唆されるとしたレポートが公開されました。

③新生児マウスを用いて、低酸素虚血(酸素不足と血流不足)が脳に与えるダメージに対するニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の保護効果を調査した研究が公開されました。

④NMNの摂取が高齢者の睡眠の質と身体機能を改善する可能性を示唆する人臨床試験が公開されました。

 今月の主なトピックスは以下の通りです。

以下詳細です。

①本研究は、1型糖尿病を持つ女性の生殖結果に及ぼす影響と、不妊症を持つ女性の卵子の質と人工生殖技術(ART)の効率を改善する戦略に焦点を当てています。

 1型糖尿病は、膵臓がインスリンを十分に生産できない状態で、全身の血糖値が異常に高くなる病気です。この病気は世界中で急速に増加しており、特に妊娠中の女性においては、卵子の質が低下し、生殖に悪影響を及ぼす可能性があります。

 研究では、**ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)**という物質が、1型糖尿病を持つマウスの卵子の成熟にどのような影響を与えるかを調べました。 NMNは細胞のエネルギー生成やDNA修復に関与する重要な補酵素です。

まず、ストレプトゾトシン(STZ)という化学物質を使って、マウスに1型糖尿病のモデルを作りました。STZは膵臓のβ細胞を破壊し、糖尿病を引き起こすことが知られています。このモデルの成功は、体重、空腹時血糖値、およびヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色によって確認されました。H&E染色は、組織の細胞構造を観察するための一般的な染色方法です。 次に、体外成熟(IVM)率を調べることで、糖尿病を持つマウスの卵子の成熟度を評価しました。IVMは、卵子を体外で成熟させる過程を指します。

さらに、**免疫蛍光染色(IF)**を用いて、卵子の品質に影響を与える可能性のある要因を調べました。これには、**活性酸素種(ROS)**のレベル、紡錘体/染色体の構造、ミトコンドリアの機能、アクチンのダイナミクス、DNAの損傷、およびヒストンの修飾が含まれます。

最後に、**定量的逆転写PCR(RT-qPCR)**を使用して、卵子内の特定の遺伝子のmRNAレベルを測定しました。これらの遺伝子は、細胞の抗酸化防御やエネルギー生成に関与しています。 研究の結果、NMNの補給は、糖尿病を持つマウスの卵子の成熟率を高め、卵子の質を改善することが示されました。具体的には、アクチンのダイナミクスを回復させ、減数分裂の欠陥を逆転させ、ミトコンドリアの機能を改善し、ROSレベルを低減し、DNA損傷を抑制し、ヒストン修飾の変化を復元しました。

 これらの発見は、1型糖尿病を持つ女性の不妊治療において、NMNが卵子の成熟率と質を改善する可能性があることを示唆しています。これは、将来的に不妊症治療における新たな治療法の開発につながる重要な手がかりとなるでしょう。

表題:Nicotinamide Mononucleotide improves oocyte maturation of mice with type 1 diabetes

<対象>マウス

<引用>Zhu Z, Zhao H, Yang Q, Li Y, Wang R, Adetunji AO, Min L. β-Nicotinamide mononucleotide improves chilled ram sperm quality in vitro by re-ducing oxidative stress damage. Anim Biosci. 2024 Apr 1. doi: 10.5713/ab.23.0379. Epub ahead of print. PMID: 38575134.

<URL>https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38575134/

 

②腫瘍抑制因子p53が臓器の線維化に与える影響を調査し、線維化の治療法としての可能性を探ることを目的とした研究が公開されました。

線維化は、慢性的な炎症や異常な細胞外マトリックス(ECM)の蓄積によって引き起こされ、臓器の機能障害を引き起こします。

p53は、細胞の増殖、アポトーシス(計画的な細胞死)、老化、代謝の調節に重要な役割を果たします。線維化においては、p53が上皮間葉転換(EMT)、細胞死、細胞老化を促進し、線維化を悪化させます。

各臓器別でみると、腎臓ではp53が腎臓の線維化を進行させることが示され、特定の細胞でのp53の発現を抑制することで線維化が軽減されることが確認されました。

次に肝臓においてはp53が肝細胞のアポトーシスと老化を促進し、線維化を引き起こします。NMNは、p53を介した老化を安定化させる可能性を本研究では示唆しています。

肺においてもp53が肺の線維化を促進し、肺胞上皮細胞の異常な活性化を引き起こします。

ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、NAD+の前駆体であり、p53を介した老化や線維化の進行を抑制する可能性があり、特に、肝臓の線維化に対してNMNが有効であることが本研究では示唆されています。

p53を標的とした治療は、線維化の予防と治療に有望なアプローチとなる可能性がありますが、さらなる研究が必要です。

表題:Targeting tumor suppressor p53 for organ fibrosis therapy

<対象>-

<引用>Bao, YN., Yang, Q., Shen, XL. et al. Targeting tumor suppressor p53 for organ fibrosis therapy. Cell Death Dis 15, 336 (2024).

<URL>https://www.nature.com/articles/s41419-024-06702-w

 

③新生児マウスを用いて、低酸素虚血(酸素不足と血流不足)が脳に与えるダメージに対するニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の保護効果を調査した研究が公開されました。

具体的には、脳の海馬という部分でのNAD+(細胞のエネルギー生成に重要な物質)のレベルや、カスパーゼ-3(細胞死に関与する酵素)の活性、SIRT1およびSIRT6(長寿遺伝子として知られるタンパク質)の発現、そしてHMGB1(炎症を引き起こす物質)の放出に焦点を当てました。

その結果、低酸素虚血は海馬のNAD+およびSIRT6のレベルを減少させる一方で、SIRT1には影響を与えず、HMGB1の放出を増加させることが分かりました。

NMNを投与することで、海馬のNAD+およびSIRT6のレベルが正常化され、カスパーゼ-3の活性およびHMGB1の放出が有意に減少しました。

また、NMNは組織損失を軽減し、運動能力や記憶機能を改善することも確認されました。

これにより、NMNが新生児の脳が低酸素虚血によって受けるダメージを防ぐ神経保護効果を持つ可能性が示され、将来的には脳損傷の治療法として有望である可能性が示唆されました。

表題:Neuroprotective Effects of Nicotinamide Mononucleotide in a Neonatal Mouse Model of Hypoxic-Ischemic Brain Injury.<対象>マウス

<引用> Kawamoto, M., Ando, T., Yamamoto, Y., Fujimoto, M., Tanaka, Y.,  Hishiki, T., Kimura, T., Murayama, A., Hasegawa, T. (2023). Neuroprotective Effects of Nicotinamide Mononucleotide in a Neonatal Mouse Model of Hypoxic-Ischemic Brain Injury. Journal of Neurochemistry, 156(4), 456-468. doi:10.1111/jnc.15322.

<URL>https://mie-u.repo.nii.ac.jp/record/2000764/files/2023DM0310.pdf

 

④65歳以上の高齢者が12週間にわたってニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を摂取した場合に、血液中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)レベルや身体機能、特に歩行機能にどのような影響を与えるかを評価する研究が公開されました。また、本研究では睡眠やストレスに関する情報も収集されました。

参加者は 60名の高齢者で、ランダムに2つのグループに分けられ、一方のグループにはプラセボ(偽薬)、もう一方のグループには1日250 mgのNMNを12週間摂取しました。

主要評価項目は 血液中のNAD+レベルと歩行機能(特に4メートルの歩行時間)で、副次評価項目として 睡眠の質とストレスが測定されました。

主要評価項目では、 4週間および12週間後に、NMN群とプラセボ群の間でステッピングテスト(足踏みテスト)に有意な差は見られませんでした。

副次評価項目の4メートルの歩行時間では 12週間後、NMN群の歩行時間はプラセボ群よりも有意に短くなりました。

また、血液中のNAD+レベルは NMN群はプラセボ群に比べてNAD+とその代謝物のレベルが有意に高くなりました。

睡眠の質については、 NMN群はプラセボ群に比べて「日中の機能障害」と「Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)」の総スコアが低くなり、睡眠の質が向上しました。

結論としてNMNの摂取は、血液中のNAD+レベルを増加させ、歩行速度を維持し、睡眠の質を改善する可能性が示唆されました。

表題:Ingestion of β-nicotinamide mononucleotide increased blood NAD levels, maintained walking speed, and improved sleep quality in older adults in a double-blind randomized, placebo-controlled study

<対象>高齢者

<引用> Morifuji, M., Higashi, S., Ebihara, S. et al. Ingestion of β-nicotinamide mononucleotide increased blood NAD levels, maintained walking speed, and improved sleep quality in older adults in a double-blind randomized, placebo-controlled study. GeroScience (2024). https://doi.org/10.1007/s11357-024-01204-1